美術部部室の中の人のブログ

アート好きな50代の女のブログです 

親愛なる死神先生

久々に新作を作りました。

ダミアン・ハーストの《神の愛のために》をモチーフにしたアイシングクッキー。

いろいろ歪んでますが、今の私のスキルではここまでが限界w

作品の雰囲気はまあ出ていると思うし、これでヨシとすることにしました。

 ダミアン・ハーストの《神の愛のために》の解説はこちらを見ていただくとして。

なぜ《神の愛のために》を作ったか?って話をします。

 

今年の3月頃に新宿三丁目のKEN NAKAHASHI で佐藤雅晴さんの「死神先生」という展覧会を見たんですね。

kennakahashi.net

 

もう、これがホントに素晴しい展覧会でして。

佐藤雅晴さんって映像を中心に作品を発表していた方なのですが。。

原美術館での展覧会で発表した映像作品。実写とアニメが混在する世界が実に面白いです。思わずじーっと見てしまう。そして、リアルの世界に立ち返ったときに、ふとリアルなのにアニメかも?と錯覚してしまう侵食性もある作品だと思います。

www.youtube.com

 

昨年9月にがんで余命宣告を受け、もう映像作品を作ることが困難になってきて、今回はドローイング作品を発表することにしたと。

 

実際にギャラリーに足を運んで、打ちのめされてしまいました。

 

外出もままならず、老朽化による取り壊しが予定されていた自宅で静かに過ごす時間のなか、ふと目にとまった親しみのある風景。私たちにとってもありふれた風景が佐藤氏の筆で描かれると、ここまでエモーショナルなものかと。

作品を見てもわかるとおり、表現としてはかなりかなりシンプルなんですよ。むしろ削ぎ落とし過ぎなくらい。ポップと言ってもいいかもしれない。

なのに、病に侵された彼の日常の目線がこれ以上ないぐらい感じられる。

しかも絵として見て美しい。

この《浴室》も、浴室の隅のタイルを描いているだけですが、もう絵としてとても美しい。

で、佐藤氏が浴室にいるときの目線にシンクロしてしまう。

 

「自宅のスイッチは、オフにすると小さな光が灯る。自分はオフにもかかわらず、夜中に「ここだよ」と教えてくれるその姿勢に感動します」という本人のキャプションにも思わずぐっときてしまった《スイッチ》。

 これね。夜中にふと目がさめたときの風景ですよ。この青。

しんとした室内、家族も寝静まっていて感じる静寂と孤独の空気がほんとにうまく表現されているな、と。この小さい灯もとてもいい。

《チャイム》これも見た目単なるチャイムではあるけど、佐藤さんのキャプションを読んで、ああと思いました。

「余命告知の報告をしてから、多くの友人知人が家にお見舞いに来てくれました。会うまでは体がだるいし面倒だなと思っているのですが、いざ玄関のチャイムが鳴ると幸せな気持ちに毎回なりました」

このチャイムを鳴らす人の目線、佐藤さん自身の目線が重なり、ただのチャイムがなんとも言えないものに見えてくる。

《ヤモリ》網戸を這っているのが分かりますねw この網戸のメッシュがなんとも言えずリアルな「おうち感」を醸し出している。部屋から網戸越しに外を見ている佐藤さんの目線に重なる。 

 

特に印象に残った作品を2つ。

 

《夜空》佐藤さんは、抗がん剤治療を始めてから、夜、不安で寝付けないとき、気分を落ち着けるために夜空を眺めていたとか。夜空を通り過ぎる飛行機の光。真夜中でも多くの人々を運ぶ乗り物を見ていると、なぜか気分が楽になり、また、いつか元気になったら、ぼくが上空から夜の街を見てみたいと思ったと、佐藤氏は書いています。

 これも、この青がすごいなと思うのです。

この青は、夜中の空の色とも思えるし、朝方の空の色とも思える。

夜中に目が覚めて、目が慣れてきてこういう色に見えたのかもしれないし、ずっと眠れなくて朝方になってこういう空の色になってきたのかもしれない。

どちらにせよ「眠れなくて、夜空を眺めている」のが分かる。

そして、ベランダの手すり。飛行機のほの明るい光。

眠れない夜の孤独、ひんやりとした空気感がほんとにうまく表現されているなと。

そして、《ガイコツ》。

佐藤さんの担当医は診察時にまったく佐藤さんの顔を見ないままパソコンに向かって話す先生だったらしいのですが、その先生が始めて佐藤さんの方を向いて話したのは、抗癌剤の治療が全く効果なしだったので緩和ケアに移行することを告げられたときだったとか。そのことをきっかけに、佐藤さんは医師に「死神先生」というあだ名をつけたら、心がすごく楽になったそうです。

この絵に描かれるガイコツ(死神先生)はずいぶんとポップで、可愛い雰囲気すら漂う。佐藤さんいわく、「死神先生というあだ名をつけてから、家にあったガイコツが怖くなり、その恐怖を打開すべくキャラクター化しようと試みたのがこの作品」とのこと。

すごいな、と。

いま目の前に表現されているのはこれから作者が向かう「死」であり、その「死」への案内人である死神先生なんですが、めっちゃスコーンと抜けてる。

しかも、佐藤氏の「死」に対する考え方の移り変わりのすべてが1つの絵に表現されてる。佐藤氏なりの「死」への悟りがポップに凝縮されてるなと。

 

ギャラリーの様子。大きな窓があって日差しがいっぱい差し込む明るい雰囲気と佐藤さんの作品の雰囲気とが絶妙にマッチしててほんと忘れられない空間でした。

ギャラリーの人に作品を購入できないかときいたところ、展覧会初日に完売したそうです。かつ、後から知ったことですが、私がこの展覧会に行った日には、すでに佐藤氏は亡くなっていたとか。 

かなりインパクトにある展示で、自分の中でもじわじわと来るものがあって。

ブログにどう書こうか、書くならば何か作品を作りたいなと思いつつ、しばらく自分の中で溜めてたのですが、ふとガイコツつながりでダミアン・ハーストの《神の愛のために》を見ていたら、佐藤さんと対極にある作品だなと思って。

ダミアン・ハーストの《神の愛のために》。改めてダミアン・ハーストの他の作の流れで見てみたんですが、やっぱり、ダミアン・ハーストは、死に対する恐怖が半端ないのがすっごく良く分かるw

もう、佐藤氏のガイコツとは全く対照的ですよね。

佐藤氏の場合、死を覚悟した上で、クッソーと思いつつ、ユーモアのある悟りに至ってる。

一方、ハーストは、怖くて怖くて怖くて。

ええい!こうしてやる~!

と巨万の富と手間ヒマをかけて作ったのが《神の愛のために》。

 

佐藤氏の作品を見た後だったので、余計に《神の愛のために》に「ハーストの死への恐怖」を感じました。

 

佐藤氏とハースト、死神先生に対する考え方はずいぶん違って、どちらを作品にしようかな~と考えたときに、グルっと一回りして佐藤氏的な死神先生観が表現できそうなのはむしろハーストの方かな、と思って、ハーストの方を作品にしてみました。

 

しかも、私の作ったクッキー、笑ってるでしょ?

ハーストから佐藤氏作品に寄せてますw

自分でいうのもなんですが、結構いい作品できました。

 

ダミアン・ハーストって、大御所の割に、和訳された作品集がないんですよね・・。

ダミアン・ハーストに関する日本語のテキストって「美術手帖」のダミアン・ハースト特集ぐらいかな。。

美術手帖ダミアン・ハースト特集、なかなか良かったです。 

佐藤雅晴さんの作品、六本木クロッシング(~5月26日迄)でまだ見られます!実にいろいろなところで電話が鳴ります。最初から最後まで面白い。

おすすめです。