美術部部室の中の人のブログ

アート好きな50代の女のブログです 

「死の棘」読書会でした

2か月に1回友人たちと開催している読書会、今回は「死の棘」でした。

実は、映画版の「死の棘」(1990)が以前からずっと気になっていて、映画も見たいし、原作も読みたいし、確か梯久美子さんの「狂うひと」も話題になっていたしで、何となく選んだのですが、どれもめっちゃ面白かった。

特に梯久美子さんの「狂うひと」は、たぶん今年読んだ本の中でベストぐらいに面白さでした(表紙は若い頃の島尾敏雄夫人ミホ)。

 

小説「死の棘」は、島尾敏雄の妻ミホが敏雄の日記を見て、発狂してしまうところから話が始まるのですが、敏雄自身が「わざわざ」ミホの目につくようなところに日記を置いていたフシがあるとか、愛人からの電報もミホが偽造した可能性があるとか、それまでの島尾夫婦像をひっくり返すような内容でもうページをめくる手が止まらない!状態でした。

そして、梯さんの緻密な検証も、緻密ながらもかなり「読ませる」のです。。

例えば、敏雄自身の日記をミホさんが清書してまとめた本(「死の棘」日記)があるのですが、敏雄の日記の原本と対比しながら、ミホさんが日記から削除したところ、修正したところを検証しつつ、ミホが(無意識に?)演出した「死の棘」像をあぶりだすとか。。

あと緻密なだけでなく、膨大な資料から読み取れる島尾夫婦の分析も、鋭くて深い。

言葉の総力戦を繰り広げた夫婦、書く書かれるの共依存、書かれることで敏雄を支配し、後に書くようになったミホ、そして、敏雄の存命時の記憶を徐々に上書きしていくミホ。

 

 ↓梯久美子さんのインタビュー

croissant-online.jp

ちなみに、本を書くきっかけになったミホさんのポートレートはこんな感じ。

(c)上田義彦

強烈ですよね。ミホさん、敏雄さんが亡くなってからずっと喪服だったらしいです。

友人曰く「死神」。

そうかもしれない。。

 

↓友人宅で供されたお料理はこんな感じ。島尾夫婦が住んでいた小岩の老舗おでんダネ屋さんのタネで作ったおでん。

甘なっとう屋さんのお芋のなっとう。糠漬けなど。

美味しかったーー。

 

島尾夫妻のことも語りどころ満載なのですが、やはり2人の子供たち(伸三、マヤ)の話題もはずせない。

特に10歳で失語症になり身体にも障害が残ったマヤさんのエピソードは、心が痛みました。親に支配されて生涯を終えた(と、私は思った)マヤさんは果たして幸せだったのかな、と。

 

友人に教えてもらったソクーロフのこの中編映画にミホさんと娘マヤさんが登場します。

たぶん死の棘を読まなかったら、狂うひとを読まなかったら、この映画はかなりつまらないものになっていたと思いますが、読んだ後だと、これ以上沁みる作品はないと思います。

特にマヤさんの登場するシーンは(自分にとっては)衝撃的でした。

 

 

マヤさんはかなり興味深い存在ではありますが、情報があまりない・・・と思っていたら、読書会の友人が、マヤさんの姪である、しまおまほさんのエッセイに出てくると教えてくれて、読書会のときに読んでみました。

かなりチャーミング!

なんというか10歳のまま成長が止まってしまった少女のような人だったようです。

言葉は話せなかったのですが(話せなかったから?)、その所作とか雰囲気で周囲の人を和ませてしまう不思議な人だったようで、伸三さんとはまったく対照的。

読書会では、伸三さんの本の方は、島尾夫妻という強烈な親を持った子供たちの地獄の日々が書かれていると聞いたこで、後日読んでみようと思います。

 

島尾敏雄の小説「死の棘」。かなりの長編ですが、読み始めたらあっという間。夫婦のやりとりが壮絶すぎて、ときに「これはコントか?!」と思うぐらい。敏雄の言動も突っ込みどころ満載ですが、ほんと名作だと思います。「狂うひと」を読む上で、この本のあとがきに書かれている内容も結構重要なので、あとがきもぜひ読んで欲しいです。

 

そして、映画「死の棘」。カンヌで監督賞をとったのも納得の素晴らしい作品。かなり原作に忠実で、原作のディティールがしっかり再現されているのも驚きました。ずーっと曇天の空。岸部一徳(好き)もいい。松坂慶子もいい。上半身裸で取っ組み合いのけんかをするシーンは、えええええ!ここまでやるのーと驚きつつ、かなり本気(笑っちゃたけど)。かなりおすすめ。

次回は来年2月。

ムーミン」を取り上げる予定です。